雨上がりの朝。
窓の外はまだ薄暗く、地面に残った水分が静かに空気を冷やしているものの、身をすくめるほどの寒さではありませんでした。季節は確実に冬へ向かっているはずなのに、ほんの少しだけ肩の力が抜ける、そんな朝の空気です。
昨晩は休み前ということもあり、夕食は妻が用意してくれたおでんでした。
台所から漂ってくる出汁の香りは、それだけで気持ちを落ち着かせてくれます。鍋の蓋を開けた瞬間に立ち上る湯気、じっくり味を含んだ大根や玉子。それに合わせて、日本酒を一杯。気がつけば杯は自然と重なり、つい飲み過ぎてしまいました。
「明日は休み」。その一言があるだけで、お酒の味は少しだけ柔らかくなります。翌日の早起きを気にせずに飲める一杯は、やはり格別なものです。
とはいえ、身体は正直なもので、朝になると結局いつも通りの時間に目が覚めてしまいます。
若い頃のように昼前まで寝ていられたら…と思わないわけではありませんが、長年染みついた生活リズムは簡単には変わりません。トイレに立つためにベッドを抜け出すと、その物音に反応して、老犬のゆずがむくっと起き上がりました。
「散歩?」
そんな声が聞こえてきそうな表情でこちらを見つめてきます。けれど外はまだ暗く、時計を見ると少し早い時間。「もう少し寝ていようね」と声をかけると、ゆずは一瞬考えるような顔をしてから、再びベッドへ戻ってきました。言葉は通じなくても、ちゃんと気持ちは伝わっているようです。
再び布団に戻ると、頭は妙に冴えていました。
こういう朝は無理に眠ろうとせず、その日の予定を静かに考える時間にしています。今日は休み。朝のうちに音楽制作を少し進めて、そのあとブログも書こう。そんなことをぼんやりと組み立てながら、外の雨音が完全に消えていることに気づきました。
しばらくすると、部屋の中が少しずつ明るくなり、散歩の時間が近づいてきます。
ゆずはというと、私の動きを気にしながらも、決して急かすことはありません。ただ静かに、声がかかるのを待っています。そして「散歩行くか」の一言を聞くと、大きく伸びをしてから、ゆっくりと立ち上がる。これが彼女のルーティンです。
若い頃のように勢いよく飛び跳ねることはなくなりましたが、その一つひとつの動作には、今のゆずなりの準備があります。足取りは慎重でも、散歩に行く気持ちは変わらない。その姿を見ていると、「当たり前」だった日常が、実はとても尊いものだと気づかされます。
雨上がりの道を、ゆずと並んでゆっくり歩く。
車の音もまだ少なく、空気は澄んでいて、吐く息が少し白い。特別なことは何もありませんが、こうした朝の時間があるからこそ、仕事や日々の忙しさに向き合えるのだと思います。
休み前の夜に飲んだお酒の余韻と、静かな朝の散歩。
そして、変わらないゆずのルーティン。
派手さはなくても、積み重なっていくこうした日常こそが、今の自分にとって一番大切な時間なのかもしれません。今日もまた、そんなことを思いながら、一日を始めます。



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